かすみゆく
田園
かすみゆく
昭和という名の喫茶店
中には常連のサラリーマンと
マスターらしき初老の男
私はなぜか吸い寄せられるようにその喫茶店に入ってきたわけだが
本棚に詰まってる室生犀星やら井伏鱒二やらドカベンやらが
私に「どうぞ」と迫ってくる
珈琲を一杯頼んで
テーブルの横に並んでいた書の本を眺めていると
めくるめく解読はできないが美しい日本の文字が蝶の様に私にとまる
どうしたことだろう
私が灰色になったような気がする
この喫茶店は
かすみがかっている
居心地は良いがそのままずばり
昭和に引き戻されたような
平成の私がまた入ってくるんじゃないかと身構えてしまう
マスターが
「おかわりはいりませんか」
と声を発する
「なあに、一杯くらいサービスしますよ」
と昭和が私を包み込む
まどろんでしまう
焦燥感を抱えて毎日右往左往していた平成の私を
抱きしめてあげたい
今
私が
昭和に抱きしめられているように