一部が全体
竜門勇気


ある人が僕の部屋にやってきた
そして
君の部屋は男の夢を叶えたもう神の御技という
ここにあるのは
長いコード
長すぎて僕自身何に繋がってるのかわからない

ある人が部屋に顔を突っ込んで
喋ってみせる
この部屋はあまりにもたばこの煙に燻され過ぎてる
ここに足を踏み入れるのは嫌
そう
ここの窓はヤニに閉ざされて誰にも開けられない
ただ僕の肺の内と外を行き来する気体が漂う場所

人が一人来て言う
この本棚には読書に耐える書物は無し
曰わく
擬似宗教と擬似科学と擬似文学の住処である
おそらくこのへやの住人は擬似的な人間であろう
その通り!
彼は僕すら擬似現実に見えるのか
何度も訪れるが僕を見つけたことはない
あるいは実際に僕は擬似的に現実での思考を真似るだけの空間に過ぎないのかもしれない

大小太細様々なコードは増えていく一方だ
時々その一部が意味ありげな小箱に繋がっているのを見る
だけど恐らくクリティカルな配線ミスのせいで
スイッチをいれても青白く光るだけでなにも起こらないのだ
その青白い光が最近は楽しくて
無意味にケーブルを買い足しに出かけたりもする

そうやって出かける時間が増えたので
来客には会わなくなった

なぜだか僕が買い足すよりも多く部屋はコードを抱え込んでいるように見えるが
いきいきと蠢くこの場所は
そんな不思議が起こる前より楽しげに見えた


自由詩 一部が全体 Copyright 竜門勇気 2012-04-24 06:00:33
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