ワイルド・アット・ハート [Blu-ray&DVD]
古月
映画本編の内容には一切触れないDVDコレクターの戯言なので、興味のない方は読まなくていいです。
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今年に入ってからデヴィッド・リンチ監督作品が立て続けにブルーレイ化され、ファンとしては嬉しい悲鳴を上げている。
先日は『ブルーベルベッド(オリジナル無修正版)』を購入し、これで我が家のリンチblu-rayコレクションはスタジオカナルコレクションの『エレファントマン(オリジナルブックケース仕様)』に続き、二枚めとなった。
今後も『ロスト・ハイウェイ』、『イレイザーヘッド』、『ストレイト・ストーリー』、『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』とリリースが続き、楽しみで仕方ない。
……と思っていたのだが、amazonのおすすめ商品の欄を見ていると、『ワイルド・アット・ハート』が知らないうちにblu-ray化されていたことに気付いた。これは不覚だった。
調べてみたところ、『ワイルド・アット・ハート』のblu-rayは、これまでに三度発売されている。
2010/10/22 『ワイルド・アット・ハート【ブルーレイ&DVDセット 2500円】』
2011/06/22 『ワイルド・アット・ハート【Blu-ray ベスト・ライブラリー100】』
2012/04/13 『ワイルド・アット・ハート』
最も発売時期の早いものは、【ブルーレイ&DVDセット 2500円】。残りの二つはブルーレイのみの一枚組。
ここで初心者が陥りがちな失敗について触れておきたいのだが、よく店頭で目にする安っぽい「ブルーレイ&DVDセット」の帯。あれは廉価版の帯とは似て非なるものであるので注意されたい。
人間の先入観とは恐ろしいもので、ブルーレイやDVDならば3980円がいわゆるフルプライスで、2500円や1980円という価格帯の商品はそれよりも下のグレードであると無根拠に考えがちだが、それは大きな誤りである。
世の中には廉価版として安っぽいパッケージで初DVD化されるタイトルも少なくない。古くは『ビデオドローム』や『ゾンビ伝説』なんかもそうだった。
今回の『ワイルド・アット・ハート』もそうなのである。廉価っぽい外見に騙されることなかれ、今回が初blu-ray化だ。
廉価棚の黄色い一群にひっそり埋もれていたので、うっかり見過ごしてしまっていたのだ。
で、ここからがいよいよ本題なのだが、上記の三種類の『ワイルド・アット・ハート』の中で、買ってもいい『ワイルド・アット・ハート』は、この「ブルーレイ&DVDセット」だけだ。
「なんで? どれもいっしょじゃないの?」と思われる方もおられるだろう。
これからその根拠を述べていこうと思う。
初心者が陥りがちなもう一つの失敗に、「blu-rayソフトはDVDソフトの完全上位互換」という先入観がある。これは死ぬほど大きな間違いなので、覚えておいてほしい。
blu-ray化するにあたって日本語吹き替えや映像特典を全部カットするなどは日常茶飯事だし、酷いものになると『トロピック・サンダー 史上最低の作戦』のように、DVDとblu-rayが同時発売であったにもかかわらず、blu-ray版は劇場公開版の107分、DVD版はそれより13分長いディレクターズカット版という、本当に意味の分からない仕様のものさえある。(ちなみに特典映像もblu-rayが72分、DVDが161分)
この『ワイルド・アット・ハート』のblu-rayディスクもまた、特典映像を一切収録していない。
では、特典映像に関してはどうすればいいのか?
そもそも『ワイルド・アット・ハート』は、2003/06/27に国内でDVDがリリースされたのだが、その仕様は映像に不具合のある酷いものだった。(※)
この酷いDVDは2004年に一度再生産されたのち廃盤になり、2005/12/23には不具合を解消して特典映像を追加した『ワイルド・アット・ハート スペシャル・エディション』が発売された。
『ワイルド・アット・ハート【ブルーレイ&DVDセット 2500円】』に付属のDVDは、収録内容から判断するに、そのスペシャル・エディションとおそらく同内容であろうと思われる。
情報を整理すると、『ワイルド・アット・ハート』には、三種類のソフトがある。
1. 不具合のある初期盤DVD
2. 不具合を解消し特典映像を追加したスペシャル・エディションDVD
3. 音質と画質は向上しているが特典映像を収録していないblu-ray
賢明なあなたなら、ここまで書けばもう、どれを買えばいいかお分かりだろう。
2と3を同梱した『ワイルド・アット・ハート【ブルーレイ&DVDセット 2500円】』。
一目瞭然、完全にこれ一択だ。
まだ持っていない方には、廃盤になる前にさっさと購入することをおすすめしたい。
(※)
『ワイルド・アット・ハート』は、2003/06/27に国内でDVDがリリースされたのだが、その仕様は酷いものだった。
国内盤を作るにあたって使用されたマスターが、PAL版だったのである。
映画好きの方ならご存知だろうが、DVD愛好家の悩みの種の一つに「PAL早回し問題」というものがある。
PALなんて初めて聞いたよ、という方のために簡単に説明すると、これはDVDのカラー規格のひとつで、ヨーロッパで使用されているものだ。
一方、日本やアメリカで採用されているのはNTSC方式とよばれるもので、これら二つの異なる方式を採用している国のDVDは、たとえリージョンフリーであっても互換性がなく、変換機を通さなければならないのだ。
「PAL早回し問題」とは、この両者の規格をコマ数1/24のPALからコマ数1/25のNTSCに変換する際に、4%早回しされてしまう問題のことをいう。
つまり、100分の映画を変換すると「4%早回し状態の96分の映画」ができてしまうのだ。
早口で高音ぎみのラブ・ミー・テンダーで、人は果たして感動できるものだろうか。
一部の奇特なコレクター以外は、赤いパッケージの『ワイルド・アット・ハート』のDVDは、見かけても買わないでいただきたい。