無題(薄くれない色の闇のなか〜)
カワグチタケシ

薄くれない色の闇のなか僕たちは
とても長い距離を歩いた
想像がつかないくらい
遠くまで僕たちは歩いた
あまい風
あまいメロディ
やわらかい音が生まれるときの
秘密を左手に握りしめて
小さなめまいを右手に感じながら
草原を踏んでどこまでも歩いた
ディストーション 突然の雨
突然の雨が捨てられた雑誌の頁を染める
そのとき僕たちは
季節が終わる小さな音を聞く

ハニー、新しい季節が
目を伏せて近づいてくるよ
やわらかいハンマーがアスファルトを叩く
女の子たちはまだ気づかずにはしゃいでいる
川を渡ってきた風が彼女たちの髪を撫でる
友だちは草原に寝転がって星を見上げている
枯れた貯水池も明日には満ちるだろう
水はオレンジ色の月を映して
子供たちは星座をかぞえはじめる

静かな朝
雑木林を分ける一本の道
イエス、怖れることはなにもないよ
やがて東の空を今日が彩る
そして
高いところにあるものから
順番に光が射していく
昨晩費えた希望も目を覚まし
愛が大気の温度を上げる

おはよう、新しい朝だよ
眠らない僕たちにも
眠っている彼女たちにも

草原を踏んでいこう
草原について話をしよう
ときどき休んで
水を飲み
また歩きだそう
僕たちに残された時間は短いけれど
短かすぎて途方に暮れるほどではないから
生きて愛するのには充分な時間があるから

おはよう、新しい朝だよ
ソーダ色の空に小さな雲が生まれる
キスをしよう
そのとき祈りが誰かに届く

おはよう、新しい朝だよ
そしてつつまれる
僕たちは
やわらかい音に
やわらかい光に


 


自由詩 無題(薄くれない色の闇のなか〜) Copyright カワグチタケシ 2012-04-21 22:59:09
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