葬列
salco

葬列の車は
誰にも顧みられず進んで行く
黒い車でありながら
まるで余人の目には映らぬかのようだ

窓を流れる対岸の住人達は
圧倒的な多数派ぶりで堤の樹下に集い
各々の充足をレジャーシートに載せて
花見に興じていた

去年の春は、この母もその一人だった
次男の家族と楽しい一日を共に
ああして過ごしていたのだ
授かり物のような春の一日を

そして母は今
簡素な霊柩車の中で
白木の棺に大人しく収まって
出来たての磔刑像みたいに運搬されている
納品のように火葬場へ

七十三年と四十二日の生の全てを
苦闘と忍耐と、強靭な希望と笑いのありたけを
動かぬ胸腔に深くしまって運ばれて行く
後続の車には虚ろな目をした中年の子らが
遺族の記章を着けて乗っている

あの日の母の笑い声、歩く姿
言葉の断片や確かな体温の
遠ざかり行くのを感じながら
現実に圧し潰されそうになりながら
先に立つ母の小さな骸を追って行く

葬列の車は誰にも気付かれず
街の中を走って行く


自由詩 葬列 Copyright salco 2012-04-21 21:03:09
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