葬列
salco
葬列の車は
誰にも顧みられず進んで行く
黒い車でありながら
まるで余人の目には映らぬかのようだ
窓を流れる対岸の住人達は
圧倒的な多数派ぶりで堤の樹下に集い
各々の充足をレジャーシートに載せて
花見に興じていた
去年の春は、この母もその一人だった
次男の家族と楽しい一日を共に
ああして過ごしていたのだ
授かり物のような春の一日を
そして母は今
簡素な霊柩車の中で
白木の棺に大人しく収まって
出来たての磔刑像みたいに運搬されている
納品のように火葬場へ
七十三年と四十二日の生の全てを
苦闘と忍耐と、強靭な希望と笑いのありたけを
動かぬ胸腔に深くしまって運ばれて行く
後続の車には虚ろな目をした中年の子らが
遺族の記章を着けて乗っている
あの日の母の笑い声、歩く姿
言葉の断片や確かな体温の
遠ざかり行くのを感じながら
現実に圧し潰されそうになりながら
先に立つ母の小さな骸を追って行く
葬列の車は誰にも気付かれず
街の中を走って行く