自転車でいこう! Ⅲ
そらの珊瑚

君の補助輪を外した朝は
まるで
小鳥の誕生日のように
空が青かった

小さな手のひらで
ぎゅっと握った
ハンドルが
ぐらぐらゆれる
どこへ向かっているのか
自分でもきっとわからないのだろう
わたしは
その後ろを
支えて
公園の中を走る
すぐに転んで中断する

「はなさないでよ」
「はなさないよ」
「ほんとに、はなさないでよ」
「はなさないよ」

何度目かの
トライで
私は
はなさないと約束した手を離した

君は
私の手を離れて
自転車ごと自由になった

はなさないって
言ったのに、と
責めるでもなく
さも
嬉しそうに
ぐんぐん
離れていった
君と自転車の後ろ姿を
見送っていたら
なぜか
バースディケーキをのろうそくを
吹き消した時に感じる
嬉しくて切ない気持ちになった

君が初めて
一人で
自転車に乗れるようになった昼
補助輪に
今までありがとうと
二人で言った




*「詩と思想」2012年7月号(読者投稿作品)佳作


自由詩 自転車でいこう! Ⅲ Copyright そらの珊瑚 2012-04-20 08:39:51
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