おさなごの夢ー遠藤先生の墓前にてー
服部 剛
桜のつぼみが口をひらいた3月27日は
遠藤周作先生の誕生日で、奇遇にも
結婚前の僕等が恋人になった日なので
府中の遠藤先生のお墓参りに行った
生後7ヶ月の周の、旅の始まり
「外に出ると赤ちゃんってけっこう多いのね」
互いにベビーカーを押しながら
通りすぎた婦人を見て、妻は言う
いくつもの電車を乗り継いで
駅から駅へと歩くたび
ホームにエレベーターがあり
杖をつくお爺さんが「どうぞ」と言って
僕等を先に入れてくれた
そんな小さな人の優しさが
今も街の何処かで生まれ
ベビーカーに宿る星の数ほど
散らばってゆく、春の始まり
あの日、ろざりおの指輪を交換した
遠藤先生の墓前にて
あたらしい家族3人で並んだ
僕等は稲穂の姿で、頭を垂れる
父親になって間もない僕が
(ありがとうございます・・・)と両手をあわせ
瞳を閉じた時、観えたのです。
人より染色体が一本多い、と診断された
(その一本のかがやき)が
さっき迄ベビーカーですやすや夢を見ていた
周の寝顔に