つむ

春だね
言の葉も芽吹く 春だね
口元の
笑うたびに開く傷跡を
春だねって
嬉しそうに
血のあとをこすりながら。
重たいシャツを脱ぎ捨てて
ぬるい水の中へ
ふと思い出したように
墜落しながら。
あっけらかんと
春だねって
指先で小さく
ひねりつぶしながら
春だね
無造作にふみつけながら
春だね
ペン軸もなみだを吸う春だね
嬉しくって
うたいながら呪詛を書いている
春だね、
もうお定まりの春だね
無病息災の春だね
予定調和の春だね
美しくって あたたかくって
何もかも空っぽの 春だね
傷口はうるみきって
そこにあったことを忘れているよ
足の裏は浮かれ立って
刺さったとげを忘れているよ
春だね、
あちらこちらで
いっさいがっさいの傷跡が開いて
笑って祝福しているよ
たのしく喝采しているよ
春だね、
無色透明の春だね
だらけきった口元から
こぼれるよだれのような流血の
うっとりと麻痺した春だね
癒えないかわりに痛みもない
何んにも苦しくないままに
輪郭もとろけだす春だね
分裂のとまらない春だね
幾千幾万幾億に
増えて殖えてふえつづける春だね
全てが僕らになって
僕らが全てになって
僕らどこにもいない春だね
おかしくって嬉しくって
かぐわしく狂おしい春だね
垂れ流しのような春だね
ホメオスタシスの春だね
ゆっくりとじっくりと
何もかもを手に入れて
何もかもを失っている
最上幸福で何んにもない
完全無欠で空っぽの
はなはだ無欲で堕落した
ぼくたちの呪わしい
永遠の春

(さあはじまるよ、はじまるよ)

口笛ふいて
笑うとぴりりと口元が裂ける
裂けたまんまでたのしく踊る
透明な出血のとまらない春
優しくてすてきな春だね
素晴らしくて明るい春だね
終わらない巡らない定点の永遠の
もう何んにもなれない
春、なんだね。


自由詩Copyright つむ 2012-04-17 17:52:30
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