あんこう鍋 / 悪食賛歌
beebee





おいらは鈎にぶらさがったあんこうさ
口からいっぱい水を呑まされて
ぶらさげられて
身を削ぎ落とされる

皮も
鰭も
胃も
腸も
心臓も
肝臓も
膵臓も
みんなお前達の胃の中へ目指している

でもへそはないよ
ツルツルでへそはないんだよ

皮は煮凝りに
荒磯海苔を刻み込み
ブルルンと恥じらいに色付くよ

おいらの肝は石竹色に
蒸されて半月切りに並べられ
刻み浅葱ちらして
おろし自我ポン酢が辛いぞ

口の周り
顎も鰓も
小骨がギシギシの
から揚げが好いかもな

髭も
内蔵も
鍋の中でトロトロ蕩けるのさ

暗闇に群れる悪食達は
今か今かと待っている

4月の夜気をガラス戸開けて
襟首広げて待っている
四角い障子戸立て隠し
今日も群れて待っている

そうさおいらは
がっつりと平らげられる
その時を夢見てる

大きな鉤に引っ掛けられて
口を大きく裂けるように開けられて
おいらは待っていたのさ

たらふく口から酒を注ぎ込み
根深の白葱や人参、牛蒡を
凧糸でぐるぐる巻きにして
喉元から押し込められて
灰汁抜きされるのさ

どうだ
海獣の油脂を搾り出し
溜まり醤油に薄紅付けて
微塵の生姜もふり付けるかよ

無闇に咥え込みすぎた
雑多なものを
精神を惑わす悉くの物を
お前達は待っている
おいらが吐き出すのを

そうさお前達こそが悪食
あんこうも恐れる人間様だ



 


自由詩 あんこう鍋 / 悪食賛歌 Copyright beebee 2012-04-16 22:57:30
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