約束
Schrödingerの猫

やってこなかった希望も
待てなかった想いも
諦めなかった夢も
綺麗な青春のように留められたなら良かった

公園のベンチから眺めた子供達のように
サンタクロースを信じたあの頃のように

飛べると信じたあの日から
足を引きずって向かった丘のむこうの景色
晴れることはなかった

汚れた靴で歩けたらどんなに楽だったかな

空も海も泣いて
羽ばたけない鳥を笑って
殻を破れないまま
明日もきっと明日のまま

支えられた言葉
差し伸べてくれた手
待っていてくれた笑顔
震える「ありがとう」の五文字

病室から見えた草花
点滴から流れるのが勇気ならいいのに
残された時間の過ごし方は
学校で教わらなかった

何度も読み返した手紙
あなたの文字が喋り出す
「誰のせいでもない」

無邪気でいたかった
言葉の裏側に悪魔が潜んで
ただ澄んだ瞳が綺麗だった

欲しかった服も
行きたかった数年後の未来も
もう必要なくて
手を繋いでくれた事
寄り添って眠った事
冷めた態度を取った事
記憶の宝物だけを抱えて
ここでずっと待ってる

帰り道はもう歩けない
片道の切符だけを握り締めて
一滴一滴落ちる点滴が心の涙

もうすぐ迎えにくる
その前に手を握り締めて語ろう

これが愛だった事
真実だった事
命という事

語り明かした夜明けは紫の雲を眺めて
捲り終えたノートを閉じて
手は振らないでそっと家に帰るんだ

愛おしく流れる最後の四季は悲しくて
小さな部屋に響いた愛の約束が赤く染まった


自由詩 約束 Copyright Schrödingerの猫 2012-04-16 00:47:52
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