あんこう鍋
nonya


不器用なのだ

皆と一緒に
綺麗に泳げないから
海底の泥の中で
ぶつぶつと独り言を
溜め込んでいる

腹が減ると
ぬめったアンテナを
おずおずと立てて
雑魚をおびき寄せては
暗闇もろともパクっとやる

そんな喰えそうもないヤツを
陸の魑魅魍魎は鍋にするという

野菜と茸と豆腐と
ぷるぷると恐怖に戦く
ヤツの切り身を
ぐつぐつ煮込むと暗闇の
芳しい匂いがあたりに満ちる

暗闇を箸でつまみ上げては
魑魅魍魎はケケと笑う

暗闇にむしゃぶりついては
魑魅魍魎はクワっと酒をあおる

暗闇を凝縮した肝臓は
その辺の魂よりもずっと美味い!

それにしても
不器用なのだ
喰われる時まで

大皿の上で咲くこともなく
椀の中を彩ることもなく
ただ闇雲に己の暗闇を
しゃぶり尽くされる

不器用なのだ

それでも

とてもいいヤツだ





自由詩 あんこう鍋 Copyright nonya 2012-04-15 10:17:27
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