五十日後の世界
竜門勇気
夜勤明けで頭ぐらり
見つけるものは
父母揃いて犬抱く姿
ただいまと声をかけると
二、三度喘いで息絶えた
ただいまと我が声はあぶくになって
さよならと我が犬は小さな吐息を吐いて死ぬ
今朝には雨は止んでいた
車に霜が降りていた
なんて日だ なんて
なんて淋しい日なんだ
夜勤明けで母と語らう
彼女はお前を待っていた
待ってその身はながらえた
みんな置いて行ってしまった
兄犬を追って行ってしまった
妹から電話がかかってきた
みんな置いて行ってしまったという
兄犬を追って行ってしまったという
俺は黙って、喋った
本当のことはわからないけれど
今度は手を取って送ってやれたよと言った
妹は黙って、喋った
私はどちらも送ってやれなかったという
みんな居なくなってしまったといって泣いた
五時も過ぎると
空は明るくなっていた
先々月行ってしまった兄犬を送った時は
まだまだ暗い闇の中にいたのに
昨日が、四十九日だったね
今日はあの日より
五十日後の世界
あの日五十日の後に
お前がいないとは思わなかった
ただいまと我が声はあぶくになり
さよならと我が犬は小さな吐息を吐いて死ぬ
ひびの入った小さな石が
血管を転がり遊んでいるようだ
この五十日後の世界を