ピラニア
そらの珊瑚

アマゾンという
喫茶店の水槽で泳いでいる
あの魚はピラニアだと
まことしやかに
客の間では
ささやかれていた

根拠といえば
そこに
張り紙がしてあった
「指を入れないでください」
怒ったような
角ばった
右上がりの文字だった

わたしたちは
よくそこで
待ち合わせをしたものだった
とりたてて
美味しいものはないのだが
不味いものもない
フェイジョアーダという
異国の香りがする
豆料理を好んで注文した
コーヒーだけは
極上の香りだった

あそこで
ついに
わたしたちは
指を入れる勇気もなく
別れてしまった
あとは
なんだか一人で行くべきでは
ないような気がして
あれらが
ピラニアだったのか
どうかは
わからずじまい

もし
どちらかが
指の一本でも
差し出す覚悟が
あったなら
もう少し続いていた恋だったのか

熱帯雨林は今日も湿っている




自由詩 ピラニア Copyright そらの珊瑚 2012-04-14 10:24:20
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