桜物語
たにい

私は恵まれている

幼年期は暖かく程よく湿った腐葉土にくるまれて夢を見て過ごした
夢を見るのに飽きた頃には頭の上から冷たい水が落ちてきて目が覚めた

大きく伸びをすると私を守っていた殻が割れた
暖かい陽が射してきてこっちをおむきと誘う
私の可愛い双葉は初めての外気に震えた

それ以来ただひたすらに太陽に向かって伸びていった
お腹がすくと地に張った根で養分を吸った
喉が渇くと空に広げた葉から雨水を飲んだ

気がつくと真っ直ぐに育ち背が高くなっていた
幼い頃は見上げるばかりだった大人の木々と今や肩を並べている
私は一人前の桜樹になったのだ

そう思うと淋しくなった
淋しさが絶頂を迎えた春に娘ができた
私の肌はひび割れて汚くなったけどピンク色した娘たちは可憐で美しい

美しい美しいと人々が集まって来て娘たちを誉めそやす
私は嬉しさのあまり踊りたくなった
踊れない私の気持ちを察して娘たちが踊ってくれた

桜花の舞


自由詩 桜物語 Copyright たにい 2012-04-13 13:01:43
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