鉄の花
木立 悟





あきらめられた真昼には
羽で見えない筆の在り処
青と金 また青と金
酒瓶の底に立ちつくす地図


鳥が煙に生ませた子
どこまで歌い
地を揺らすやら
羽毛を羽毛になぞる肌色
空の頂を押し上げる


曇の奥から
鐘を見つめる三つの目
夕陽は近い 夕陽は近い
鳴らすものなく
風はすぎる


誰もいない街に
鉄の花が咲き
いつまでも午後のように
空を映し
空を染める


見えず聞こえぬ雨の震えが
遠くの雨を遠去けて
硬さを失くしなお立つ鏡に
檻の日常を映しつづける


同じ場所のつらなりを
異なりながら廻りながら
川は一途に連れてゆく
時間と水を埋めてゆく


夕陽が砂に 崩れ消え去り
他は他の砂に ただ在りつづけ
いつ終わるのか知ろうともせず
生まれ出る葉に微笑んでいる


曲がり角をゆく 曲がらずに
まっすぐをゆく 見えなくなる
ほんとうは曲がり 遠まわり
見知らぬ道の 迷いの円周


終わっては去り終わっては消え
小指は花のかたちを巡り
水色は仕掛け
水色は箱
触れようとする子を追いかける


さかさまの遠吠えに
音の鱗にかがやく空洞
冬の工具
ひとつ目のまま朝になる曇


残るつまびき
ちらばりちらばり
午後の海に緋色を返し
路面電車を火口に運ぶ


誰もいないことだけを記録し
心ある曇は街を離れた
手のひらと円と
傾いた壁
燃えるのはただ
冬の静けさ


鉄の花が水に落ち
さらに広く空うつすとき
午後は昼の名をひとつ
忘れられた街へ置いてゆく

































自由詩 鉄の花 Copyright 木立 悟 2012-04-12 20:07:38
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