海辺にて
石瀬琳々
潮騒がさわいでいる
白い手のひらを翻しながら
あなたが光を浴びて笑う海辺です
わたしがまぶしそうに昼の月を探す
あなたが風に吹かれてたたずむ海辺です
わたしが泣きだしそうに砂に貝を拾う
波にたわむれて歩く素足に
物問いたげな時が寄りそう
あなたは逃がさないように
あなたは時をしっかりつかまえた
確かな指先でそっと
わたしの心を握りしめる
すべてつかまえようとしては駄目
風のようにいつかすり抜けてしまうから
あなたは春のひとみを持ち
わたしを見つめる永遠の海辺です
こぼれるのは涙だけでいい
あまさないように抱きしめていようと
不器用なあなたを
臆病なわたしを
ほら潮騒がさわいでいる
白い手のひらを翻しながら
ひとみを逸らして駆けてゆく
あなたのやさしい指先を逃れて
遠く春の海が光る、