女のあたい
月乃助
女の値段は、4000エキュだった
それが高いのか 安いのか 分からなかった
でもそれは、今では 問題にもならないのかもしれない
女の背には、遠くに橋があった
黒い森を つないでいた
好奇の目を向ける男や
嫉妬深い女たちにも 笑顔をたやさない女だった
*
婚約指輪の値段を聞いて
女は、もっと高いのを買ってくるように
それを男につき返した
女は、
それが 自分の値段のように思えた
*
この森は神さんたちが住むという
神聖な修行場だと
男たちはみな 隣町まで女をもとめに行った
そこには、昔 売春宿があった
*
昼間から街に立つ女は、
ホテル代別で 20000円だと男を誘った
友達の家を追い出され
ネット・カフェで暮らしていると
そんな話だった
*
森の女は、そんな話をきいて
自分の値段をはかりかねた
森の 屈強な男たちの 巨きな睾丸をゆらす猿たちの 赤ら顔の鬼たちの
値踏みする目に あらがいながら
*
夜の冷たさが
帳をおろす
雪のとけた 山道に影をなげる
月夜
女を買いにやってきたのかと、
戸をたたく音に
獣か 人か 鬼か 男神か
いつまでも 眠りのはしで
それを聞いているのだった