雑居ビル地下一階
灰泥軽茶

なにも考えずに
いや、なんにも考えることができずに

夜の歓楽街をぶらぶら歩いていると
道の端っこ
下水道のコンクリートから
白い泡が溢れだしており
近づいてみると
ぬくっと泡の中から
油膜の虹色ぬるりと光り
影が起き上がり
のそのそと
ビルの谷間の細い路地を
歩いていく

少し遠くから泡のしずくを辿っていくと
古ぼけた雑居ビルの地下に消えていった

下をぼうっと覗くと
地下にはバーらしき看板で
「その場しのぎ」
と書かれた灯りが
ちかちか点滅している

慎重にゆっくり階段を降りていき
ゆっくりドアを開けると
そこには
いくつもゆらゆら揺れるぼやけた影が集まり
楽しそうにグラスを傾けている

私も引き寄せられるように
一歩二歩と近づいていくと
だんだん楽しくなり
そこに混じりゆらゆら揺れて
ぼんやり光る飲み物を飲んでいくと
私自身が何だか何やら
わからなくなり
幸せな気持ちに包まれ
うすく滑らかにひきのばされ
自由自在に変幻する影となって
街に帰って行った







自由詩 雑居ビル地下一階 Copyright 灰泥軽茶 2012-04-08 02:15:34
notebook Home 戻る