グランドツアー/おくのほそ道
吉岡ペペロ
彼は弟子とグランドツアーに出掛けた
行く先々で詩を調え
彼の自我はそのあいだ
宇宙の奥へと追いやられた
詩を調えるたび
彼の自我は宇宙の奥へと旅をしていたのである
だからといって詩を調えることが
彼にとっての忘我ではなかった
忘我を与えていたのは
地図上の移動だけであった
休むたび彼の全神経は風光にさらされた
自我は宇宙の奥へと追いやられ
しかし自我はまだ宇宙の奥の細道に在った
そこに自我が在ることで
彼の詩には真如が顕現した
このグランドツアーが
彼の没後三年いまから310年前
おくのほそ道と名づけられ刊行されたのである