あと五分の幸せカフェ
藤鈴呼


いらっしゃいませ
からん ころん と 小気味良い音

中に入って来るなり
怒った風な声で 叫ぶ

コーヒー!!

はい。如何にも 此処は 喫茶店ですが
個々の判断に 委ねております

注文に対応するかは
自由となっております故

ドリンク作成の階段から降りても
文句 言わないで 欲しいんです

叫ぶだけじゃあ 何にも 伝わりませんぜ
-- それで コーヒーを どうしたいんですか

作りたいんですか
眺めたいんですか
苛立つアイツに ぶっかけたいんですか

きちんと語尾まで 言ってくれないと
細かいことは 伝わりにくいんですよ

店内には ラジオが流れる
流れているのは ラジオではない

それじゃあ ベルトコンベアーが
必要に なっちまう
あくまで 音声だ

そんなコトは 言わなくったって 伝わるものだと
教えられて来た

環太平洋と来たら 造山帯と続くって
相場は決まってるんです

地理のテスト用紙にはね 
必ず出て来る用語ですから
赤マーカー 引いときなさい

間違ってもね
赤点じゃあ ないんですよ

大きくて素敵な地図を 見せられて
大きくて青い海に魅せられて

其処と 経済と 協定が
どうしても 結び付かないんです、と

マイクの向こうで
こんな 短縮形は 無効なのだと 叫んでる

俺達は ライブの準備が 忙しくって
そんな 短縮形すら 知らなかったんだって

何処のドイツなんだ 根性なしめ!
嗚呼 間違った 常識知らずの コンコンチキ!

などと 唱えては
きっと 罰が 当たります

どんな バチでしょう
きっと ムスカリを植えた 鉢の上を飛ぶ
蜂なのかも 知れませんが 大丈夫

そろそろ 冬ですから
彼等も 冬眠に向けて
大人しく 眠っている ことでしょう

生憎 今日は 雨
余計なコトは 忘れて 
眠っていましょうよって
温かな 布団を 手繰り寄せる

あと五分の 幸せを見たくて 目を閉じるけど
昨今の夢は 夢がなくって イケナイ

楽しめる夢ならば 何回だって 見たいけど
続きを見たい夢が 世の中 少なすぎるんだ

イズレニシテモ 明治維新に 匹敵します故
きちんと 耳の穴 かっぽじって
ニュース速報には 片耳ダケ 傾けときなさい

仲間内で 馬鹿にしあってないで
恥と言うものを 知りなさい

端っこで 小さく 呟けば
丸い背中が ウン と 頷く

早く眠らないと お化けがやって来ますよ
今度 取り憑かれたら お終いなんですから
もう片耳を 欹てて 

何時だって 緊急避難 出来るように
出来れば 非常袋を 枕代わりにしてね

それでも 人間
眠らずには 生きていくことが 出来ませんから
最後は 悪夢だって 見るんです

悪夢と 悪運 重なって
もう これ以上 呻き処が なくなったら

今度 叫んでみますか
あの 三文字を。

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自由詩 あと五分の幸せカフェ Copyright 藤鈴呼 2012-04-04 21:22:01
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