小学校における並行世界
小川 葉



息子が小二に進級するにおいて、ひとつ注意したのだが、あれはたしか私が小三になった頃、うっかり二年生の教室に、休み時間、思いっきり助走して(注目を集めたかったのだろう)その教室に、豪快にすべりこみしたことがある。無論みな唖然とし、やがて下級生全員に笑われて、あれは恥ずかしかった。

息子の二年生の教室も、一年生とは違い、二階になると聞いて、ますます心配になり、気をつけなさいと、まじめにアドバイスしたのだが、じつはと息子。すでに休み時間、まちがえて隣の二組に入ったことがあるのだと告げた。そうしてあたりを見まわして、はじめて様子が違うことに気がついたそうである。

その不思議な感じ、私にはわかる。あの不思議な感じはなんだろうね。息子に問うと、やはり不思議だったと首肯した。教室の雰囲気などは、同じ学年ではさほど変わりあるまい。しかし人が違う。それだけで、どこか遠い、パラレルワールドに来てしまったかのような感覚が、私にもあったのである。

もし息子が二組だったら、二組なりの息子の人生もまたあった、とでもいうような、不思議な現象。そのように、クラスが違うだけで、また学年がひとつ違うだけで、別な居場所があるのかと思えば、それも不思議な気がして、父親であり、大人でもある私は、今どこにいるのかもはやわからなくなるのである。



散文(批評随筆小説等) 小学校における並行世界 Copyright 小川 葉 2012-04-04 00:07:00
notebook Home