降り来る言葉 LIX
木立 悟
岩陰に隠れた巨きな手
陽に染まり さらに隠れゆく
灰緑のなかの金のうた
岩めぐる径をすぎてゆく
もとのかたち
もとのかたち
ひとりの子が抱く
壊れたかたち
花が花を撫でながら
花になる前のかたちとなり
うたの糸のあやとりは
樹から樹へとわたされてゆく
蛇と火の文字
常に真昼にはじまる出来事
月の半分 星の半分
夜へ夜へ 流れ込むつまびき
橋を離れ
声の上を過ぎ
抱きあう原に沿い
涙の足もとに
心を置いて来る
朝の子らがふりかえり
水に溶けるふたつの灯を見る
水の底の夜の時計
濁りの柱を空へのばす
じりじりと虚しい 真昼の緑を
緑が見るのか
真昼が見るのか
それとも誰も 見ていないのか
坂の上には
ころげ落ちそうなものがいて
花冠を戴き 微笑んでいる
すぐに飛び去りそうな羽を持ち
はらりはらり
微笑んでいる
水は流れ
かたちはもどり
同じ地をつらね
失くし つらね 失くし
月ばかり見て
聞こえないうたを聴いている
心やぶれた
うたうたいたちの亡きがら
白い檻には誰もいない
拙い色の重なる先に
音の道はのびてゆく
器を連れて駆けてゆく
昼の火に立つ
花と幽霊
うたや水の列
雨が照らすひとつのかたち
隠れきれない
岩陰の手に咲いてゆく
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