青空に登る灰煙
白昼夢
あの子は行ってしまった。
遠い遠い、遥か向こう側の世界に。
たった一言が言えなかった。
あの子は行ってしまった。
暗い暗い、丸い壺の中に。
もう手は届かない。
あの子は行ってしまった。
木版に書かれた戒名と、悲しみを振りまいて。
記憶の中だけの存在に。
悲しみに暮れ、怠惰な日々を過ごしていたのが
どれだけ長い年月に思えたことか
それでも振り返ってみると、たったの一年も経っていない現実が
ただ無造作に、背後に転がっているだけで
そこには何の色も無く、何の意味も意義も無く
酷く暴力的に時間だけが過ぎて行ってしまった
歩いてきた道にあの子はもういない
歩いて行く道にあの子はもういない
君はどこにいる?
君はどこにいた?
形が無くなると人間はどこへ行ってしまうのだろう。
記憶が無くなると人間はどこに行けばいいのだろう。
輝いて見えた日々は色あせて
輝いて生きた日々は鈍色に
そろそろ一年が過ぎる
こんな風が強い春の日だから
こんな風が強い春の夜だから
君に会いたい
君と同じ年になって
初めて手の届かない距離というものが分かった
遠すぎる距離
君はどこへ行ってしまったんだろう
君は行ってしまった。
手の届かない、別の世界へ。
君は行ってしまった。
声の届かない、遠い世界へ。
君は行ってしまった。
もう二度と会えない世界へ。
君の言葉も、声も
繋いだ手の感触も、温もりも
もう思い出せない
春