連中
ホロウ・シカエルボク





踊れ、踊れ、踊れ、踊れ、内側から死滅するものたち、皮膚の表面に浮上して落陽の踊りを踊れ、俺は曇天の暮れ時に死亡するがらくただ、踊れ、踊れ、踊れ、踊れ、息切れて汚い泥をその喉から溢れさせるまで
朦朧とした脳髄の中に今にも崩れ落ちんとする木組みの橋がある、腐食して、変色している、ひと足でも踏み入れたら崩落してしまいそうだぜ、名前の判らないおぞましい虫がその欄干を這っている、二百、三百…羽の無い玉虫みたいな細長い虫だ、脚が多く…要らない位に多く、そして目的が無いまま蠢いている、ギチギチ、ギチギチ、爪切りの様な歯が擦れ合う音なのか?あちらこちらで小刻みに鳴り続けている…
踊れ、踊れ、踊れ、踊れ、内側から死滅するものたち、お前たちのそれを生きながら眺めてみたい、俺の肌はお前たちの死骸で湿疹まみれになるかもしれない、みじめにぼりぼりと掻いて―だけどそれはなにも見られないよりはずっとマシなことなんだ
曇天の夕暮れの後の夜は日中より明るい、曇りガラスの窓に頬べたを張り付けて黄色い夜を見ている、黄色い夜…まるで死体の黄疸の様な色味だ、あれは死体に塗りつけるマスタードだ、喰らえ、大口を開けて…死神にわけまえを恵んでもらうがいい
絶望の行進が安普請の屋根を鳴らす、イラついて、喉まで溢れかえる叫び声、だけどそれを誰かに聞かせるわけにはいかない、いつも誰かが俺が狂うのを待ちかまえている…ほら!薄闇の中で首根っこを掴むのは誰だい?そんな奴はいない、そんなことする奴はどこにも居ないよ、皆そう言う、皆そう言うんだ、だけど俺には見える、聞こえる、感じる…そうした気持ちを、邪気を、悪意を…絶望の行進の足跡はそんな誰かを躍らせるマーチさ、聞こえるだろう…今夜は風が強いぜ
くたばったら夜は明けない、くたばったら…長い夜の中に居るような気分だったとしても、少なくとも俺は太陽の光をまだ感じているのが好きだ、くたばったら夜は明けない…俺が言っているのは肉体的なことの話だぜ
飲み込めよ!お前の舌の上でゴロゴロ言っている叫びを!もう少し真っ当な世界で太陽を望んでいたいのならな!いくら能書きを垂れても、取り巻く世界は色を変えたりなんかしないぜ…
何かがドアをノックする、何かが窓を手のひらで叩く、何かが壁の中で呻き声を上げている、俺には判っている、そんな奴はどこにも居やしない、俺はドアを開ける、俺は窓を開く、俺は壁を砕く、天井を、床を剥ぐ…、やあ、今晩はと狂った奴らたちが俺を見てにっこりとする、術の無い俺はにっこりと笑い返す、その返答は彼らを受け入れるということに違いないのに…!壊れた部屋の中で俺は、客人を迎える準備をした、真夜中の台所で…人数が多すぎるから、水やなんかで済ませることにしたけれど
ははははは、と奴らは楽しげに笑っていた、その造作を抜きにすれば、それはまるで楽しい宴のようだった、誰も、誰ひとり浮かれたことなど口にしてはいないのに…はははは、と、楽しげに…いや違う、奴らは俺を笑っているのだ、俺のことを…俺はムカっ腹が立った、俺はやかんで湯を沸かして、熱いそれを、奴らの輪の方へぶちまけた、あああ、ひいい、という悲鳴が聞こえて…俺の周囲には荒れた部屋だけが残った
俺はひどい火傷をおっていた、左腕の皮がべろべろに剥げ落ちて…桃の身の様なものが露出していた、ああ待て、と思った、俺は熱など感じなかった、これが本当のことなのかどうか判らない、俺は熱を感じなかった、なにも…ただあいつらを追い払いたいと思っただけなのに…俺は悲鳴を上げる、火傷のせいではない、何を追い払うことが出来てなにが居座ったのか、判らないままなのだ、なのに、火傷なんぞに気を取られなければならない…!俺は、そして、悲鳴を上げたことを後悔した、まるで、頭がおかしくなったみたいじゃないか…
開けた窓の向こうから幾つもの目が俺のことを見ている、暗闇に紛れて…さっきの奴らとは違う、新しい連中…何が見たいんだ、何が見たいんだい…俺の手元にはもう煮えたぎった湯はないぜ…




ぱん、と、月がまたたいた、いつの間にか出ていた月が……





自由詩 連中 Copyright ホロウ・シカエルボク 2012-03-28 21:08:30
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