下手にすみれ
ふるる

のっけからもう
激しいのなんので
いつも街にやってくる
サーカスのテントが燃えている

さんご礁のように街は
雪と夜で静か
人と噂で秘か
道行く人たちの背中に
ひれがあるけど内緒

裁いたはずの魚が
無実を訴えに来た
あの木、街一番の公園の
広場の木
あの木には実なんてついておらず
おおおおらず
ひとつお教えいたしますと
実という字は
家の中にじつに沢山お金がありますという意味ではありますが
木にお金はならないのです

だからお金はとってないのです

すごく
歌の上手い若者が
駅のロータリィー広場でライブ
不実な愛を嘆いて
確実に無視されて
いつしか人だかりができて
放火魔で と噂される

街一番の美女である大家の娘は
下手にすみれなので
細かいことを気にしがち
家にある沢山のお金の出どころは
あの木ではないかしら
無実を訴えているお魚は
ほんとうの父親なのではないかしら
娘がそっと触る背中には
ひれがあるけど内緒

街一番の美女が
すごく歌の上手い若者と
公園の木を連れて家出したので
街はあっという間にさびれていって

それから丁度一年後

さっきからもう
静かすぎるのなんので
いまは街にいない
サーカスの団長が逮捕されたらしい

春が無言でやってきて
街も人も
どこかへ連行されていったらしい
罪状は下手にすみれ







自由詩 下手にすみれ Copyright ふるる 2012-03-22 15:54:23
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