誰か止めればよかったのに
ただのみきや

誰か止めればよかったのに
投石器に自分の箱庭みたいな心を乗っけて
あいつは遠くへに飛んで行ってしまった
ほらそこのベンチ 降り積もった火山灰
虚ろなカタパルトがじっとしている

誰か止めればよかったのに
ベーキングパウダーを入れすぎたパンケーキみたいな女が
口ずさむ借金地獄の唄に染められて
あいつは自分の寿命を少しずつ丸めて奇妙な小鳥をこさえては
地下鉄のホームで売りさばいていた

誰か止めればよかったのに
幼稚な若旦那は道化たちを引き連れて
何に船を浮かべたつもりかあっちにこっちにぶっ放し
粋も風情も壊しまくっては悦に入り
「おれがやらねば誰がやる」ってほざいていた

誰か止めればよかったのに
あいつがハネムーン色の開いた墓だってことを知らないやつはいない
良い水で育ったロバみたいな娘くらいしか騙されはしないのに
だが足元に転がる古い吸殻みたいにおれたちは無関心で
誰か止めればよかったのに と思うだけだ
苦い胆汁を呑み下すことにも
すっかり慣れてしまっている



自由詩 誰か止めればよかったのに Copyright ただのみきや 2012-03-21 00:15:19
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