花蒔き
田代深子
祭りのごとく花を蒔き
塩を蒔き
くうとなき空飛ぶ鳥に
豆を蒔き米を蒔き
菓子を蒔き食うや食わずの
子らには餅を蒔き
子らは走りきて掴みあい
奪いあい
わらうか
視子は
空掻く声で
毛羽だった錦ひき
傘鉾かかげたやまぐるま
のなかで
わらいさわぐ路の子らは
くるまをかこみ
手にてに
餅を握り土まじる米と豆を
あつめ化粧紙を裂いて菓子を
ほおばり
花は
くるまの小窓に投げ入れて
視子はいま足もなえ
瞼はれ耳ただれおち
乾きささむける
くるまの揺れも骨を打つ
いっこの痩せた根塊のごと
冥がりで
綿の床にうずもれ
みている
真白の路傍に崩れはてる
頭の大きな子その
においかぐ枯犬
車牽く身重馬がぐうといなる
大人し馬に路の子らは
こわごわ触れわらい
飼葉を持たせば馬は食む
こうして強い陽に路が
白々かがやくとき
視子
御前には
白い路の先へつづく
緑黒の深山その先の
砂地と海と芳醇な国々の港
星ばかりの氷原
鉄と硝子の小路も
みえるのだろう那辺にも
わらう子らはおり御前は
御前に似た子を探し経巡る
空掻く息を吐き
はしる風のごと四肢ひろげ
路端に思わしげな母たち
さしむかわぬよう待つ
子らはいずれいさかいし
誰かがかすめ誰かが
小突き引き倒される
多く持つもの
少なく持つもの
馬が前足で白い土を掻いて
くるまはしたがう
視子の息が細く流れでて
さわぐ子らにまとい残る
御前を乗せやまぐるまは
お宮へ参る
視子
御前を乗せ傘鉾かかげ
お宮でなくば那辺へゆこう
水青い河の流れるところ
苔生す岩の間に稀花が
咲くところ否
御前は
子らを探すのだろう
わらいいさかいし路はしる
子らの群を追い巡る
ついにその足で
路に立つことないまま
ゆくか
ゆこうか傘鉾かかげ錦ひき
くうとなき空飛ぶ鳥の
ゆくかたばかりに
花
蒔いて
2004.9.23