望むひと
恋月 ぴの
1
必要と頷いても
近くにあっては困るらしい
それは遠くにあって
必要なときにだけお世話になる
ありがとうございました
添えたお礼と深く折り曲げた腰を上げてしまえば
あとは総てを水に流す
2
肌触りのよい言葉
拒む仕草を組し抱かれ
耳元で囁かれた
いずれは許すつもりでいたとしても
今すぐでないことは確かだった
愛の確証と引き換えに身体を開く
例えしたたかと揶揄されたとしても
そのほかにどんな術があるって言うのだろう
無様なほどに引き裂かれた脚を閉じ
敢えて問いかけてみる
背中越しに返ってきた返事で埋めようとして
埋められない
そっけない吐息の氷の冷たさと
3
裏切られた記憶を引き摺りながらも
託してみる
依存心が強いだけ
そうなのかも知れない
それでも
春の兆しは優しげな日差しに揺れ
曖昧な微笑みの意味を紡ぐ
そして胸のうちにと折り畳み
移り行く季節の刹那に乱れた髪を整える
4
明日はお彼岸の中日
いつもの年なら紅梅白梅と可憐な春の賑わい
そぞろ歩きでさえ惜しく思え
ことさらにゆっくりと境内を歩んだのに
足早とは至らぬまでも
日陰の冷たさに首をすくめ
春の訪れを口ずさむ枝先越えの陽気に心なしか綻び
水に流そうと無言で問いかけてくる背中に答え
そっと腕をからませた