希望
吉岡ペペロ

銀行から電話があった

母のお金がなくなっているのだという

私はフィリピンとブラジルの混血だ

母の国には行ったこともないし行く気もない

父はもういない

いないからだろうか

ブラジルには行ってみたいとおもう

銀行からの連絡を問いただすと

母は私を避けるようにおどおどしていた

父が亡くなるまえからそうだった

社会的なことはいつも私がやっていた

やっていたのになぜ

まくし立てるとすくんでしまうから

時間をあけてやさしく根気強く聞いた

母は一生懸命ためたお金を

ともだちにすべて引き出されてしまった

私は母が嫌いだった

父も嫌いだった

それが間違った考え方であることも

たぶん最初からわかっていた

ただひとつ

その感情だけが自由だった

母のともだちと話し合うことができた

こんな底の底にいるのだ

そう思わなければ負けそうな気がした

話し合いながら

私ははじめて母のことを

今までとは違うべつの感情で思い浮かべていた

こんな底の底にいることが

私の自尊心みたいなものに

どうしてなんだろう、希望を与えていた






自由詩 希望 Copyright 吉岡ペペロ 2012-03-18 09:40:45
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