闇の語り手
いねむり猫
夜半の犬よ
おまえは 闇にまぎれて 旅を続ける
人々が 自分を演じることに 疲れ
一人 目を見開いて
静寂の闇を 探っている時
蒼い星空と黒い山脈の境界から にじみ出すように
ヒタヒタと 足音を殺しながら 現れる
決して口にしてはならない すべてを終わらせてしまう言葉
その臭いや気配を 鋭く避けてきた 思い出してはならない 闇の記憶
美しい川面に 写し出してはならない おまえの素顔
夜半の犬は 地鳴りのように 低く唸りながら
生き返り始めた闇たちに 見つめられている
その人の 背を
軽く押すのだ
私は
おまえがその背に隠している 深い傷跡のような 凶悪な刃物のような
それでも おまえの ごつごつと装飾された背骨を支えている
それら闇の住人たちの
封印された声を 伝える者なのだ
これまでも 何度か おまえを訪ね
誘惑は 無視されてきた
けれど おまえの闇は
決して 去ることも 鎮められることもない
ただ 時間だけが
おまえによって 止められている
だから おまえの奥底に潜む 隠された夢は
いつでも 生き返り また好きなだけ うごめく
今こそ 穏やかに壁を開き 互いの系譜を 確かめ合うのだ
その先に 何が待つのか
それは 分からない
ただ 相互に語り始めることが必要なのだ
おまえが 生き続けるために
なにより 黒くつやつやとした血を分けた 闇の住人たちと
おまえ自身が 語り合いたかったはず だ
ずっと 以前から
夜半の犬は おまえの背をまたそっと
その真っ黒な鼻ずらで
押している
冥界からの激しい風は
夜半の犬の 長い体毛を 星空へと吹き上げ
黄金の月の光を 細くちりばめる