峠にて
西天 龍

月もないのに
雪山の稜線がはっきり見えてる
まるで、朝帰りを見とがめるオヤジのようで
とてもバツが悪い
日の出にはまだ間があるのに
お茶を入れるガスの火がいくつも揺れてる
ここは日本有数の晴天率だそうだから
今日もきっといい天気で
間もなくウォーキングおばさんたちが繰り出してくる

ナスの漬物のような夜明け前にさっさと家に帰ろう
どうせ
食いきれないほどの朝飯を
お袋が用意してくれてるはずだ
腹一杯になったら一眠りして畑に行くんだ
今日からまたここで暮らす
誓いを立てるために

送るときはもろ手を上げて押し出すように
大げさに
あれからいろいろあったけど
迎え入れるときは何事もなかったように
知らん顔して
そんな故郷が
本当にありがたいと思う

お袋が飯を炊く火がまるで見えるように
頬に温もりが伝わる


自由詩 峠にて Copyright 西天 龍 2012-03-17 14:51:17
notebook Home 戻る