発端
壮佑


海が
めくれてゆく
いくつもの
いくつもの
海が
めくれて
岸壁から
追い縋って
宙を泳ぐ指先に
紫貝のように
閉じる音楽

 (母は海に還ったのだ

街が
たわんでゆく
ゆったりと
ゆったりと
街が
たわんで
給水塔の
遥か遠くで
軋む地平線から
蜃気楼のように昇る
やわらかな乳房

 (君は横たわる街だった

空が
ふってくる
はらはらと
はらはらと
空が
ふって
積乱雲に群がる
海月のように
闇を舞う
ことばの群れを
置き去りにして
おまえは

 (焼け焦げた砂漠の縁を歩け

ことばは
剥がされる
ことばは
流される
夥しい数の
ことばが
螺旋を描いて
真っ青な泥の層の
さらに下層の
水底に広がる空を
吹き荒ぶ風にさらわれて
迷子の呟きになり
発端に置かれる

 (いったい
 (どれだけの街を喪い
 (どれだけの空と海を
 (葬送したのか

意味は渦を巻きながら
無意味に近づいてゆく






自由詩 発端 Copyright 壮佑 2012-03-16 20:47:46
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