スキー場跡
灰泥軽茶

賑やかな風景が今も見えてきそうだ
昭和のレジャーは大移動
小さなゲレンデ一つに
休みともなれば
がやがや人が集まり
きちんと並んで
リフトに揺られ
ゆっくり滑っていく

帰りの電車もバスも住まいも窮屈だけれど
みんな夢があって空を眺められていたのかなあ

目の前の風景は
草がぼうぼう
大きな看板も小さな標識も
べコべコ傷んでいる

少し探検して歩いていると
可愛らしい食堂をみつける
中を覗けば
「めし」の札がかかっていたり
壊れた食器や棚が転がっていて
床はこんもり盛り上げって
所々穴だらけ

上を見上げると
大きな大きな蜂の巣がぶら下がって
ぶんぶん侵入者を警戒している

今はもうしんとして
雑然とした廃屋だが
椅子だけは
綺麗に窓際に取り付けられた
長い木のテーブルに
等間隔逆さにして置かれ
椅子の足には
びっしり濃緑の蔦が生い茂っている

そして
飴色に輝くガラス窓から差し込む光によって
大きく小さくなる光の塊と
ウゴウゴ蠢く濃緑の蔦が
まるで流れ去った時代の
織りなすタペストリーを
かたちづくっているようで
私はふうと息を吐き
昭和の湯気に包まれた



自由詩 スキー場跡 Copyright 灰泥軽茶 2012-03-15 02:47:21
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