或る一生
HAL

鮭は生まれてから
海を目指して何万kmにも及ぶ
果てしない距離を旅する
その海で4年暮らしたら

産卵期が近づくために
過つことなく自分が生まれた川を
目指して過たず
流れに抗いながら
戻ってくる

途中では冬眠から目覚めた熊が
餌を求めて川の浅瀬で待つ
それらの餌にならずに戻った鮭は

雌が産んだ卵に
精子を振りかけると
痩せこけたからだには
もう生きる力はなく死ぬ

そして親が死んだ後に
孵化した稚魚が産まれる
もちろん生命を与えてくれた
母も父ももういない

そう鮭は親も知らずに
また子も見ることなく
生まれて死ぬ魚なんだ

きみはそんな一生を
送ってみたいと想うかい 
例えそれが宿命であったとしても

ぼくはご免だ
余りに寂し過ぎる
いまのぼくより遥かに
余りに寂し過ぎる


自由詩 或る一生 Copyright HAL 2012-03-12 00:45:34
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