友よ
いねむり猫

この秋のあまりの美しさに 歩みを止めてしまった友よ

色づいたけやきの葉を透かして やさしい光が
おまえの大きなからだをつつみ
少し眉を寄せて 落ち葉に埋まった足先を見つめながら
一人思いを練っているのか

立ち止まってしまったおまえは 
もはや 歩き出すことはできない のに

 五十歳を超えてから、おまえは熱心なマラソンランナーになった
 人よりも高い視線で 快適な速度で お堀を走っていた

 野球部の高校生たちを追い抜いたって
 得意そうに話してた 

 皮肉なF・K・ディックに波長を合わせて
 この世界のうかつな構造を見抜いても
 知らない振りで通り過ぎるのがマナーだった

 美しい馬たちの走る姿に 心を寄せて
 かれらが競う数十秒の劇場に
 真実を見ていた


この秋のあまりの美しさに
自分の時を止めてしまった友よ

その閉じてしまった 美しい時間の中で
おまえはずっと一人で 秋の美しさに浸るというのか

 でも 大切な人を守ることは
 もはや できない

 高校時代からの奇妙な友人たちが
 大人になったというのに しでかす 
 とんでもなくおろかな出来事に
 手を打って喜ぶことは もうできない

 ライトアップされた馬場を疾走する
 馬たちの躍動を 胸に吸い込むことは
 馬たちの興奮に濡れた瞳に見入ることは
 もう かなわない


この秋のあまりの美しさに 
帰るべき方位を 見失ってしまった友よ

 おまえを呼んでいる おれたちの声が 聞こえないのか
 病室で おまえを呼び続けた 悪友たちを 置いていくのか

 おまえを 生み育てた母を 一人にしてしまう


この秋の美しさは 悲しみで いっそう美しい


見事な紅葉を見るたび 
晴れ渡った空を見上げる度に

 私は おまえを小さく呼び うつむくことだろう




自由詩 友よ Copyright いねむり猫 2012-03-11 19:40:11
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