ゆびのおと
るるりら

むかしあるところに不思議な植物があった
あるひとの ゆびのおとが ぱちんとなったとき
その植物は ビールになった
その不思議に人々は笑い 手をとりあって 酔いしれた

むかしあるところに不思議な種が飛んでいった
あるひとの ゆびのおとが ばちんとなったとき
その植物は パンになった
その不思議に人々は笑い 手をとりあって 飢えから救われ
人々は その植物のことを 最高の植物と言う意味で フラワーと呼んだ

むかし あるところで 人々は伝説的に不思議なフラワーを
さらに極上に育てた
そのころから 人々は ほかの植物のことも素晴らしいと思い始め
綺麗なものから順番に 花の名前を与えた
きれいな人々が街にあふれ
そのそれぞれが花のようだった
街自体が光輝く花のようだった
人々はいつしか醜いもの蔑み 侮蔑し 目もくれなくなった

そんなとき あるひとの ゆびのおとが ぱちんとなったとき
天地がひっくりかえり富ある者もそうでないものも死んだ

ながいながい
慟哭
ながいながい
艱難
ながいながい
沈黙
かさなりあう
沈黙


しずかに
いくつもの手と手が
結ばれて

そして
いま
耳をすますと
ちいさな子の あまり上手ではない ゆびのおとがキコエル
生き残った人々は すこし笑い 
人々は 
ちいさな こころのまま 歩きださずにはいられない

 


自由詩 ゆびのおと Copyright るるりら 2012-03-08 07:58:28
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