ばあちゃんは髪結いになりたかった
蒼木りん

ばあちゃんは髪結いになりたかったのだと聞いた

襟足を剃ってもらった
花嫁になるでもない子どもの頃に

髪結いの修行のために東京へ向う前の日
じいちゃんと結婚することが決まった

ばあちゃんはむかしは娘だった
髪結いにならずに嫁にいった

手ぬぐいをあてがって石鹸をこすられ
剃刀の刃がヒャッとする

ピンク色の貝印だったか
よぎる恐怖を信頼が覆う

自分の手の甲に剃ったものをこする
手ぬぐいで私の襟足を拭くために

洗面器にはお湯
あったかい手ぬぐい

拭いたあとに
ちょっと寒い襟足

じいちゃんは
自分の葬式の日に戦地から帰って来た

五人の娘と二人の息子と
七回も子どもを産んだ

あの
でっかい顔の叔母さんたちが娘だ

ばあちゃんは
はじめっからばあちゃんだった





未詩・独白 ばあちゃんは髪結いになりたかった Copyright 蒼木りん 2004-12-01 23:53:07
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