シェスタ
HAL

夜は浅く長く 昼は深く短く眠る
世界が いつしか僕から消失していく
死が シェスタのようであったらと
祈り願いながら 僕は今日も
光のなか 眠りの岸辺と誘われる

意識と無意識の境界線が朧になっていく
徐々になくなっていく

それは 黄昏のように
それは 眩暈のように
想い煩いなくやってくる

時間は静止し 世界は停止する

陽射しはまるで挽歌のように
僕が 此の世界から消え去っていくまで
旋律のない子守歌を
歌いつづけてくれる

そして とても深く短い安息のなかから
ゆっくりと覚醒していくときに
眠りの前に存在していた世界は もう何処にもなく
一切の手垢のついていないグラスのように
開けたばかりのBarの清澄な空気のように
僕は 新しい世界に再生する

その更新の蘇生は 誰にも祝われなくても
僕は 洗い立てのま新しいシーツのような
目醒めを憶えながら
自らのためにLennonの創った
A Day In The Lifeを口笛で吹く
ラスト・コードを1オクターブずつ上げていった
E D C D Gはさすがだと想いながら

真昼の陽光のなかで
誰もいない親愛な孤独のなかで
そこは 紛れもないバルベックだと
強く感じながら
僕は スローモーションのように
シェスタの刻に別れの挨拶を告げる

それは 朝の目醒めとはまったく違う
磨き上げられた硝子のように
美しい虚無もなく淋しさもない
誰にも触れさせない僕の起源のようだ

そこには 朝の覚醒のような物憂い気怠さの
欠片の一片が何処にも見当たることはない
神の意思と乱離のない秩序によって成り立つ
微塵の傷痕のない僕だけの限りない宇宙だ


自由詩 シェスタ Copyright HAL 2012-03-06 06:46:10
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