蟻殺しのアリエッティー
和田カマリ

 皆さんは、人間の値打ちの定め方をご存知ですか。乗っている車?ノンノン。巻いている時計?これまたノンノン。履いている靴ですって?ノンノノノン。クラブのちーママじゃあるまいし、何と言うか、発想がちょっと貧困でいらっしゃるのでは・・・

 まあまあ、そんなに怒らないで、落ち着いて聞いて頂きたい。人の価値はですね、その人の住んでいる家の、門構えを見れば大体判ります。なんだ、そんな事かなんて、門構えの素晴らしさが、全然判っておられない。

 僕の家は、室町時代から続く由緒正しい庄屋なのです。広大な敷地を白い壁塗りの塀で囲み、門構えは京都の南禅寺をミニアチュールし、左右に仁王像を拝した、この村では随一の造作を誇っております。ある大手住宅会社の営業マンなどは、わが家に訪問した際に溜息をついて。

「お宅ほど立派な門を見たことがないです、人の価値は門構えを見たら、すぐわかりますよ。」

 うれしくなって、田んぼをひとつ売ってやったほどです。

 ええ、これでもまだ、門構えの凄さがお判りにならないのですか。では、しかたがありませんな、皆様に、取って置きのお話をさしあげます。そのかわりに、何卒、何卒、内密に御願い申し上げます。我が家の門に住んでいる、素敵な救世主のお話を・・・



 今、皆さんとお喋りをさせて頂いています僕は、名を有江(アリエ) 家継(イエツグ)と申します。件の門構え、すなわち有江邸の長男、跡取り息子なので御座います。現在50歳にして、新婚ホヤホヤです。初婚なので、戸籍に×もありません。.

 そんな僕も、つい最近までは自宅の中庭に建てたプレハブ小屋に、一人で暮しておりました。母屋は両親と、弟夫婦が同居しており、僕が結婚するまでは、弟に華を持たせていた形でした。何故ですって?どうせ財産は、全て僕の長子単独相続であるのだし、男の器を見せてやって欲しいと家族会議で頼まれたこともあって・・・まあ、自由気ままな、あの様な仮暮らしも、悪くはなかったので御座いますよ。

 ある日、徹夜でAVD(AVのDVDの事)を鑑賞していた僕は、疲れ果てて、昼過ぎまで寝ていました。ちなみに、嫁さんにするなら、たとえ1秒たりとも、年下でないと許せないのですが、AVDに限って言えば、熟女モノが好きな僕でありました。

 何か、もぞもぞするのと、息苦しいので、さすがに寝ていられなくなった僕の眼の前に飛び込んできたのは、身体中を包み込む黒い絨毯、すなわち蟻の大群でした。蜂蜜をチューブから直接吸い込むのが大好きな、プーさん然とした僕は、昨夜もチュパチュパしながら寝てしまったらしく、奴らの格好の餌食と化していたのです。

 開けっ放しのドアから進入した昆虫軍団は、容赦無く襲い掛かって来ていました。鼻、口、耳、目、肛門、臍etc、穴という穴に侵入してきたトゥルーパーに、全身を麻痺させられた僕は、起きて奴らを振り払う、気力すらも萎えてしまっていたのです。

 するとその時、「キシャー。」と物凄い奇声を発しながら、蟻達を次々に屠る者が現れました。真っ裸の女の妖精でした。手のひらサイズの彼女は、蟻を殺しては食い、食っては殺し始めたのです。腰まで伸びた三つ編みの一本お下げは、良く見ると干乾びた小動物の大腸でした。きっと、何時でも味わえるようにと、自らの髪の毛にエクステしていたのでしょう。

 美しい顔に蟻酸を浴びて、モアモアと煙を放ちながらも、殺戮の手を緩めなかった彼女。これには流石の軍団も撤退を余儀なくされ、嘘のように部屋からいなくなってしまったのです。

 「妖精さん、ありがとう、命の恩人だ。」

 興奮の醒めやらない彼女は、歯を剥き出して笑いましたが、急に真っ赤な顔になって、前屈みにつんのめって、黒い反吐を吐いたのです。強酸性のそれは、畳を焦がしました。泥酔状態の若いOLが、便器に顔を入れて苦悶しているような、いたいけなポーズだったので御座います。

「大丈夫かな、妖精さん。」

 人差し指の腹で、首筋から尾てい骨に架けて擦ってあげると、残りの嘔吐物を、全部吐き出して、少しスッキリしたご様子でした。僕はカブトムシの飼育ケースの中に、リカちゃんベッドをセッティングして、妖精さんに横になってもらいました。ツユクサから滴り落ちる水玉を、口に含ませると安心したのか、すやすやと眠ったようでした。その後、僕はまた一人でAVDの続きを見ていたのです。

 半時間後、自らの魔羅をしごいておりますと、いつ目覚めていたのか、妖精さんも起きていて、ケース越しにAVDをガン見し、立ったままオナニーをしていました。食欲を満たした後、性欲が急に高まる事は、僕にも良く理解できたので、カブトムシの雄を一匹、ケースの中に入れてやりました。

 恐るべしは、虫キング。妖精さんと交尾する為に、即座に角を振り上げ突進して行きました。すると彼女は、更に高く片足を上げ、キングの頭部にそのかかとを落としたので御座います。カブトムシの自慢の角はへし折られました。

 それからは一方的な暴力が延々と続いたのでした。キングの足は、終には2本しか残っていませんでした。彼女は、半昏睡状態にまで陥いらせた虫王を強引に負んぶすると、そのペニスを無理矢理に自らの女性器に突っ込み、強固にくわえ込むやいなや、激しく揺らし始めたのです。慈悲深い母の所作が、地獄と化していました。

 彼女が、おっぱいの割には大きな乳輪を一際張り切らせ、まさにオルガスムスに達しようとしていた瞬間、瀕死のカブトムシは羽を目一杯拡げ、妖精さんを抱えたまま天井に向かって飛んで行きました。ぶら下がっていたハエ取紙に絡め取られると、ショックで彼女を手放した後、終に息絶えてしまったので御座います。
 
 妖精さんはムーンサルトを2セット繰り返すと、僕の魔羅の上に着地しました。その衝撃で僕は、射精してしまいました。シャーシャーと迸る、男の本気汁を眺めながら、彼女はフラメンコのように手を叩いて、豪快に笑っておられました。

 「決めた、君しかいない!」

 僕は妖精さんを妻にする事に決めました。プロポーズをすると彼女は、身体に比例して、その脳も小さいせいなのでしょうか、あまり良く理解できないようでしたが、嫌だとも言いませんでした。ただ、ポカンと口を開けて、明後日の方向を見ていました。一種の、恥じらいのようなもの?だったのかも知れません。

 「じゃ、良いんだね。」

 と僕が言うと、彼女は

 「キシャーッ。」

 と答えました。

 これで中世より継続する、我が家の本流を絶やさずにすむのです。駅伝競技において、後続の者にタスキを渡し終えたような、ホッとした晴れやかな気分でした。僕は妖精さんを昆虫ケースに入れると両手で抱え揚げ、両親への報告の為に母屋に向かいました。

 「お父さん、お母さん、僕のお嫁さんです。」
僕はケースを差出して、妖精さんを父母に引き合わせました。

 「ついに、この時が来たんだね、母さん。」
年老いた父母共々、うれしさのあまりなのか、泣き出してしまいました。

 妖精さんはと言えば、やはり、口をポカンと開けて、明後日の方向を見ながら、鼻糞をほじくっていましたが、やがて、まさにその指で、陰部をまさぐり始めました。

 不思議な事に、僕は両親に淀みなく、妖精さんのプロフィールを語ることが出来たのです。彼女とは、一度も込み入ったお話をしていないにも拘らず、その人となりが手に取る様に判ったのでした。

 彼女は普段、我が家の門に住んでいて、この家の者達が害虫の脅威にさらされた時には、命がけで駆除をしにやって来る、この地域NO1のハンターなのでした。それもこれも当家が、一流の門構えをしていたからの事です。祖先に感謝するばかりでした。一流は一流を知る、自然界の鉄則なのです。このお話の最初に、僕が言った事、これで今度こそ、皆様にもお判り頂けたと思います。

 ふと見ると、弟夫婦も泣いていました。

 「ちょっと待て、お前らの涙には、不浄の澱が沈殿している。」
僕ははっきりと言いました。何故って奴らは、僕の結婚のせいで、この家を出て行かなければならないからです。ただ、この様な祝いの席においても、自らの保身を優先する、弟夫婦が急に哀れにもなってきました。

 「ならば、引き続き、この家にはおまえ達が住めば良いだろう。」
その時の奴らの安堵の表情が、未だに忘れられません。

 あまり、人付き合いの良くない妖精さんと、父母をいきなり同居させるのは、得策とも思えず、最初の内は距離を置いて新婚生活を楽しむのも一手かなと閃いたのです。

 「ただ忘れるなよ、分をわきまえろ。所詮、お前らはただの管理人だ。」
弟夫婦には、因果を含ませて置きました。

 「偉い、良く言ってくれた、流石はお兄ちゃんだ。」
父母は僕の手を取り、喜びながら、こう続けました。

 「お前の新居だが、もう準備ができている。静かな良い所だよ、さあ行こうか。」



 そういう経緯で最近、僕達は父に連れられて、カーナビにも情報のないような田舎の、やたら白いこの建物にやって来ていたのでした。我々の新居となった清潔な部屋には、日に何度も医者や看護婦が現れて、身の回りの世話をしてくれています。おそらく、異生物間の婚姻には厳重な医学的管理が必要なのでしょう。

 僕に課せられし使命は、一にも二にも子造りの他はありません。体格差のある僕達夫婦に、ジャストフィットする体位などを、日々探求している今日この頃なのです。ああ早く、家内の妊婦姿を見てみたいものです。

 そうそう、肝心の妖精さんなのですが、一緒に過ごす事はあまり多くなく、ともすれば、実家に帰って害虫パトロールに精を出しているようでした。近頃は自分よりも身体の大きな、ドブネズミや野良猫を相手にしているらしく、生傷が絶えません。向上心の強い、実に立派なフェアリーであります。

 とは言え、彼女のいない夜などは、新婚男子の身としては、やはり、とても辛いので御座います。

 「どなたか、よろしければ、熟女で妊婦のAVDを一晩なりとも、御貸しして下さいませんでしょうか。」

 「ゲヒー」
 何時になく、弱々しい声が聞こえてきました。彼女が帰ってきたようです。今の話(AVDの件)はお忘れ下さい。

 おお、何と言う事でしょう、彼女は全身血まみれではありませんか。さらには、手のひらで押さえている首筋から、ドピュドピュと今も止まらずに、赤い潮が溢れているのです。妖精さん、妖精さん、しっかり、しっかりして下さい。契って間もない、こんなにも早く、男やもめになるなど、僕は嫌で御座いますよ。

 「妖精さん、妖精さん。」
 彼女は白目をむき始めました。するとだんだん、身体全体が透明になって見えなくなってきたのでした。やっと結婚できたのに、もうお別れなのですか。

 「嫌だ、嫌だ、しっかりしてぇぃ。あなたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」



自由詩 蟻殺しのアリエッティー Copyright 和田カマリ 2012-03-03 15:53:10
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