かなしみを知らない
壮佑


あい変わらずぼくは
かなしみを知らなかったから
トーイチに会いにゴミ捨て場へ行った

夜中に網小屋まで降りて来て
悪さをする星どもなら知っとるがの
じゃが かなしみは知らん
カン女に聞いてみいの
ごみ捨て場で残飯を漁りながら
トーイチが言い終わると
ぼくはトーイチになっていた

トーイチは
カン女に会いに磯へ行った

海髪イギス豆腐を酢味噌で食べた鳥は
水母に生まれ変わるんは知っとるで
じゃが かなしみは知らん
イサクンに聞きゃあえかろう
磯でニナ海髪イギス草を採りながら
カン女が言い終わると
トーイチはカン女になっていた

カン女は
イサクンに会いに岩礁へ渡った

満潮の時に姫虎魚ヒメオコゼに刺されたら
干潮まで性夢を見るんは知っとるど
じゃが かなしみは知らん
海に聞かにゃあどもなるまあ
岩礁の魚や蛸を銛で突きながら
イサクンが言い終わると
カン女はイサクンになっていた

イサクンは海の沖へ
舟を漕ぎ出した

碧い海は
たくさんの小島を浮かべて
何処までも広く深く
潮の流れが
木切れや白い漂流物を
大きく弧を描いて運んだり
所々で渦を巻いたり
懐に魚群を回遊させて
青空では鳥達が
魚を狙って鳴きながら
てんでに舞っている

鳥達が鳴き止んだ時
イサクンは
ぼくは
海になった

かなしかった








自由詩 かなしみを知らない Copyright 壮佑 2012-03-02 21:29:39
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