硬直は誠実ではない
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硬直は誠実ではない。丸い玉の中をハムスターが走り続ける。同
じことばかり繰り返しているとバカになる。しかし同じことを黙々
と繰り返す熟練した職人はバカではない。悩ましいことは決して
有意なことではない。常に動き続けること、これが生命の本分で
ある。とか、かしこまったって所詮下衆である。反吐さえも出ない
下衆。空気のような反吐。だから人の目を気にする。これからの生活に
苦心し、人のやさしさを忘れる。硬直して動かなくなった人の哀し
みを忘れる。人前で恥をかくことを怖れて、どうにか逃げることは
できないかと、いやらしい出口を探しあぐねる。冬の雪の白さ
が肌にしみる。痛みがもう一度私を引き戻してくれる。私は気付く。
気付くけれどもわからない。それでもいいと自分を説得する。けれ
どもそれが嘘だということを知っている。詐欺でしかない。自分を
詐称する。そうやって人をだます。うまくだませれば安心する。
安堵する。私が生まれたことが罪であることを忘れることができる。
錯覚する。まるで平気な顔になる。償いなどしなくてもよいと心の
底のほうでにやける。気味の悪い顔でにやける。知っているのに知
らないふりをして、知らないのにわかっているような顔をする。ど
んな痛みも通り過ぎればそれでおしまい。なくなったものに痛みが
なくなればもう早晩にでも酒を飲み、明朝には温かい飯を食う。そ
れでいいはずがないと時に折れるがそれも一時。深酒が目の前の雪を
溶かす。泥にまみれた茶色い雪が足元をゆるくする。ふらつくからだ
をまとって、私が在ることを問わない。気付かないふりをするのは
得意なのだから、なんにも感じてないような面をして、あとから悔い
ればいい。


自由詩 硬直は誠実ではない Copyright within 2012-02-29 15:47:23
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