トマトときゅうりの物語
石田とわ
さむいさむい小さな箱の中、そこがふたりの始まりでした。
ほっぺを真っ赤にしたトマトはまるでお日様をそのまま
詰め込んだようで元気いっぱいはちきれそうです。
そんなトマトがきゅうりは大好きでした。
真っ赤な可愛いトマトを前にしてひょろ長いじぶんをどうやったら
好きになってもらえるのだろうときゅうりはみどりの体をながめては
ため息ばかりついていました。
さむいさむい箱の中でふたりは夢中になっておしゃべりしました。
と、いってもトマトのおしゃべりをきゅうりは黙って聞くばかりでしたけど。
トマトもきゅうりが大好きでした。
そのすっきりした姿もじぶんのおしゃべりを黙って聞いてくれるところも。
ずっとずっと一緒にいられたらいいのにといつしかそんな風に
思うようになったのです。
真夜中はふたりで寄り添い眠りました。
あしたの朝まで白い箱はあけられる心配がないのです。
いちばん安心できる時間でした。
でもそんなふたりの時間もそろそろおしまいに近づいているのが
わかりました。
きのうはねぎのおじさんと、白菜のおばさんがさようならと
でていったのです。
その夜トマトはまるい体をきゅうりにできるだけくっつけて
たいせつなことを決心したのです。
次の日の朝です。
カタンという音とともに白い箱にひかりが差しました。
みんなが大好きなおかあさんが来たのです。
おかあさんは一通りみんなと目をあわせ考えています。
トマトはごくんと一度つばを飲み込み大きな声でさけびました。
「おかあさん、わたしをきゅうりのお嫁さんにして!」
きゅうりはびっくりしました。
おかあさんもびっくりしました。
トマトはきゅうに恥ずかしくなって赤い体をさらに赤くしました。
きゅうりはそんなトマトをみてうれしくなり
「おかあさん、トマトをぼくのお嫁さんにください」と
言いました。
おかあさんは優しい声で「あらあら、さっそく結婚式ね」と
ふたりを抱き上げました。
その日ふたりはおかあさんの手によってきれいにスライスされ
やわらかなパンのうえに寝かされました。
まん丸でうまくきゅうりに寄り添えなかったトマトも
今はきゅうりと体をぴったりとくっつけています。
ぴりっとマスタードのきいたマヨネーズがふたりにかけられ
そおっと、パンがのせられるとトマトときゅうりはさらに密着し
きゅうりはやさしくトマトを抱きしめました。
この日、ちいさな子どもたちのお腹におさめられトマトときゅうりは
こどもたちの体のなかで幸せに暮らしました。