顔なしのひと
恋月 ぴの
ひとりで生きられる
生きられない
それとも、ひとりで生きざるを得ない
わたしってどれなんだろうね
※
無責任ってわけじゃないけど
ちょうど
満員電車のなかで誰かに寄りかかってしまうような
仕方ないじゃんと思っているところがあって
大人らしさを自覚しなくちゃなんて
朝起きる度に思うのだけど
何かしら困りごとが起こる度
誰彼となく手助けを求めていたりする
それでも喉元過ぎれば知らん顔
我ながら身勝手すぎるとは思うのだけど
※
頭の禿げあがった男のひと
意外に家事とか苦にしないようで
塵ひとつ落ちてない片付けられた部屋は女っけなし
ひとり寝の夜は寂しくないのかな
というか
そんな思いは不必要なぐらい男を感じさせる匂いしなくて
お気に入りの楽曲とかを解説するのに熱心で
ブラウスからのぞく下着の色には無関心だったりする
※
やっぱ身勝手なんだよね
ひとりじゃ生きられないとしても
誰にも心を開いたりはしないし
なんか話し相手欲しいなと思ったときには
そばには誰もいなかったりする
寂しがりやでもあるんだよね
寄りかかりあいながら生きるのが「ひと」ってことらしいけど
わたしの寄りかかるひとにはなぜかしら顔がなくて
自販機みたいに同じ言葉を繰り返すだけ
でも
それが心地よいなと思うわたしも確かにいたりして
わたし自身の顔だっていらないんだけど
あんたも消えちゃえば
鏡に映る顔に向かってつぶやいた