リハビリ
ふるる

「痛くするけど、がまんしなくていいからねー」
リハビリのお兄さんは言った。中1の体育の跳び箱で失敗し、ひじ骨折→骨をくっつけるために手術で針金を埋め込み→骨がついたから手術で針金を出し→固定していた腕が90度に固まる
だったので、腕をまっすぐに伸ばせるように練習中。

分度器を当てながら、毎日ひじを温めてはゆっくり伸ばしていく。
どのくらいの痛さかと言うと、小指をそらせて手の甲につけていくような、無理でしょ、折れちゃうよ?と言いたくなるような痛さ。
「いたたたたたたたたた!無理無理むりむり!!」
がまんしなくていいと言うので、痛みを逃すために文句を言い続ける。

「今日は100度までがんばるよー」
「やだー」
「そのままでいいならいいよ」
「やだー」
「ダンベルと砂袋どっちがいい?」
「どっちもやだー」
ダンベルは落ちた筋肉をつけるため。砂袋は手首につけて、その重みで伸ばしていく。
お兄さんはイケメンだが容赦という言葉を知らない。私は座って、ひじの高さの台に腕を置く。お兄さんは私の手に自分の手を組ませ(恋人つなぎというやつです)腕もくっつけて、ゆっくり体重をかけて伸ばしていく。いくら痛いと言おうが全く動じない。
たまに痛くて力が入りすぎ、終わるとお兄さんの手の甲に私の爪の後がくっきりついていることがある。
「ごめんねー」一応謝ると、苦笑して「明日もがんばろうな!」と頭をぽんぽんする。

リハビリの間お兄さんは、痛みを逃がすようにと、「試験勉強やった?」など色々聞いてくる。
「形容詞と形容動詞の活用やったよ」
「形容詞の活用言ってみてー」ぐいぐいぐいー
「かろ、かっ、く、う、い、い、いだだだだだーーー!!」
「けれだろ?」
実話です。

バレンタインの日、
「チョコは?」「ないよ」「ないの!?」と心底がっかりした様子だったのが笑えた。
「ほんとはある?」「ほんとにないよ」「ないの!?」としつこかった。帰りにあげたけど。

そんなつらいリハビリが今日で終了、となり、お兄さんが
「もう来ないのかーさみしいなあ」
とぽつりと言ったけど、私はめんどくさい病院通いと痛いリハビリが終了した喜びでいっぱいで、満面の笑みでさようならをした。他のリハビリ師さんも寂しがってくれた。やりとりが面白かったと。もうちょっと成長していたら恋心が芽生えたりしたのかもしれないけど、当時の私の理想の彼氏はヘッセのデミアンだったので、3次元に用はなかった。




散文(批評随筆小説等) リハビリ Copyright ふるる 2012-02-27 17:02:12
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