小さな秘密
そらの珊瑚

小学生の頃のいきつけの内科医院は いつも
消毒薬と漢方薬の匂いがしていた
医者の奥さんが受付の奥で薬を調合していて そこでもらう薬はとても粉っぽくて
飲むと必ずむせた

待合室から小さな裏庭が見えた
羊歯と篠竹が植えられていて 置石の上をぎらりとにぶく光りながら蜥蜴が走っていった
そのあとを追いかけるように小人が走るのを見かけたが そのことを誰かに言ったことはない
私はサザエさんの漫画を読み それでなんとか気分の悪さを紛らわそうとしていたけれど
サザエさんが鳥っぽくみえて少し怖かった
ビニイル貼りの固いソファーに座っているとさらに気が滅入り永遠に名前を呼ばれないような気がしたけれど じきに奥さんが私のことを呼んでくれた

診察室には人体模型があって 知っているくせにいつもどきりとして【自分の皮も剥がされる】貧血の予兆がした
今まさに飛び立とうとする鳥の剥製は死んでもなお生きようともがいていた
医者と奥さんは驚くほどそっくりで 似たもの夫婦なんだなと思った
そこの家の娘と私は同級生であった
やはりとてもよく似た顔であったが そのことを誰かに言ったことは
ない
日曜日 家族と共にサザエさんのアニメを見るたびに 本当のサザエさんは怖いんだよ、とても血が濃いんだ、けれど誰かに言ったことはやはり
ない
言ってしまったら秘密は飛び立ってしまう

私の皮をべりべり剥がしたら
小さな秘密がごろごろ出てくることだろう


自由詩 小さな秘密 Copyright そらの珊瑚 2012-02-26 09:31:00
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