ズー



なにもきかなくていい日がきて、かげのない広場に咲いた花をゆらし、白地のデッキシューズに蝿がとびうつってくる。ぼくはかかとをへらしてあるく癖がぬけないまま、くるぶしの辺りで染みになった蝿がしずかに目をとじたのをかんじていた。つまり、きみはぼくのひだりてで新緑のベンチに腰をかける。もちろん、きっかり4オンスのチョコレートの包装紙にむきあっていた。それから。


なにもきかなくていい日の為にやらなくちゃいけないことをあらかた片付けたぼくは廃車置場から抜けだしてきたばかりのタクシーをひろい。きみやきみ以外の人も、あさ、ミセス.カリーナの店でたべたマッシュポテトよりいくらかましなチョコレートにむきあっている広場からはなれた。
たぶんきみは、まだあそこにすわり、あたたかい地方のつづりで、カカオは、あなたにとって鼻出血をあっかさせる危険性をたかめます。と書かれた包装紙をにらみつけているはずだ。
それから。僕は。それからのことをおもうんだけど。


きのう、数週間ぶりにたずねてきて、あさになると、家のどこにもみあたらないきみのようななりで、きみやぼくじゃない人はすててしまうデッキシューズの染みになった蝿が、なにもきかなくていい日の主旋律みたいにその羽をやすめている。まだだ。まだきこえてこない。


とてつもなくたいせつなことばがペイントされた看板のまえで。そうぞうもしたことがないまちのそとで。あの花の種子がまかれない土地で。きみのかじるチョコレートがとけない場所で。ぼくはタクシーからおろされる。
なにも聴かなくていい日のまひるをすこしすぎて、染みになった蝿が目をひらく瞬間に、デッキシューズのかかとをすりへらして。


自由詩Copyright ズー 2012-02-25 12:29:21
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