Days of cat
そらの珊瑚

ナナという名前だった
もとは捨て猫だったらしいが
いつのまにか 
隣の家に居着いてしまったらしい
すごく立派な面構えで
どこかで外国猫の血が入ったのか
ブルーの眼と
むくむくの銀毛を持つオス猫だった

そこんちのおばさんがとても可愛がっていて
おばさんが仕事から帰る時間になると
戸口に座ってお出迎えをするという
意外に律儀な一面も 持ち合わせていたようだった
おばさんは海外旅行が趣味で
お土産にいつもスプーンをくれた
なぜいつもスプーンなのか
理由を聞いたことがないので
ついぞ謎のままになってしまったが
それは働き者の
(メイドのような)ものではなくて
デコラティブな
(お姫様のような)スプーンだったので
飾っておくほか
使い道がない代物だった

時々ナナが
私の家に遊びに来ることがあって
鍵をかけていない
リビングのサッシを自分で開けて入ってくる
そこに誰もいなければ
和室のふすまも開けて私を探し
チーズをおくれとねだるのだった

そのままくつろいでいく(ふり?)こともあれば
食べ終わると同時に
余韻も残さずに
さっさと出ていく(正直!)こともあったけれど
サッシを閉めずに出ていくので
「閉めるのは猫には無理なんでしょうね」
と言ったら
無言で睨まれたっけ
男に
「泊まっていくのは無理なんでしょうね」
と言ったら
困ったような顔をしていたっけ

十五年以上生きたらしい
最期はさすがに
寄る年波に勝てず
最盛期の半分位の体積になってしまった

おばさんもナナも
もうこの世の人(猫)ではないけれど
時々
ナナそっくりの猫に出会ってどきっとする
可愛がってあげたのに
化けて出たかとどきっとする
いや、愛していたら
化けてでるのもいいかもしれない

ナナは
きっと猫の世界でもモテたんだろうね
何代目かは知らないけど
今もナナによく似た猫に合う
一体何人子供をはらませたのだろうか
ナナ一族は今も健在だよ

時々
風がリビングのうすいカーテンを
揺らすとき
私はこうしてナナのことを
思い出しては
少し笑う
少し笑って元気になる


自由詩 Days of cat Copyright そらの珊瑚 2012-02-25 08:26:41
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