HAL

7年前の皐月の深夜だった
寝返りが打てないと眼が醒めた
左半身がまったく動かない

何かがおかしいと
右半身で左半身を転がし
ベッドから転げ落ちる

電話まで這っていきながら
救急車を呼ぼうと
電話に辿り着き

あれほど死にたいと
ずっと想っていたのに
これで終われるんだと想いながら

119番に住所を告げている
自己矛盾を感じながら
右顔だけで自分を嘲り笑う

その時どこからか
聴こえてくる懐かしい声
忘れもしない青森弁訛りの声

二十才 僕は五月に誕生した
もう暗記している詩(うた)を
合唱する様に声に出してみる

その後もつづく繰り返しに
こだまでしょうか はい そうですと
辞世の句の代わりの下らないジョーク

そして意識が薄れ谺も遠ざかるなかで
ほら僕は正解だったろうと想う
やはり孤独死だったろうと想う

徐々に近づいてくる救急車のサイレンが
葬送曲かとモーツァルトよりはましかと
微笑みを浮かべて僕はいまあの世にいる


自由詩Copyright HAL 2012-02-22 11:10:49
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