比叡の岸
Giton
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愛する気持ちが悲しいときは
ひとはどうすればよいのだろう
…まばらに生えた松の向こうで…
…水鳥 揺れる揺れる…
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悲しいのに涙がでないときは
おれはどうすればよいのだろうか
…朱い鳥居の下をくぐってゆく…
…その黒い影…
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夜どおし降りこめられて誰もいなくなった
真新しい土曜日の拝殿を抜け
平らにまぶされた雪を踏みゆけば
…亜鉛華しろくしずむ…
松並木の向こうは荒い爪
で彫りこまれた青銅盤
渺茫に消えるレリーフの江
ばらまかれた水鳥が黒ずんで揺れている
…あゝ水鳥 揺れる揺れる…
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拝殿に手を合わせ
拝殿にかしわ手を合わせ
なんど謝っても願っても
きみはにこやかに赦しても
おれはおれが赦せない
罰する理由がなければ赦す理由などあるはずがないのだ
…水鳥揺れる 銅のグラヴーア…
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真新しい紅白に着替えた巫女が
赤い自動車でやって来た
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